
プログラムのご案内

- タイトル
- 「おじいさんのランプ」
- 著 者
- 新美 南吉
- 朗 読
- 梅島三環子アナウンサー
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第1回放送
2009年5月15日
かくれんぼで、倉の隅にもぐりこんだ東一君がランプを持って出て来た。それは珍らしい形のランプであった。八十糎ぐらいの太い竹の筒が台になっていて、その上にちょっぴり火のともる部分がくっついている、そしてほやは、細いガラスの筒であった。はじめて見るものにはランプとは思えないほどだった。そこでみんなは、昔の鉄砲とまちがえてしまった。…
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第2回放送
2009年5月22日
夕御飯のあとの退屈な時間が来た。東一君はたんすにもたれて、ひき出しのかんをカタンカタンといわせていたり、店に出てひげを生やした農学校の先生が『大根栽培の理論と実際』というような、むつかしい名前の本を番頭に注文するところを、じっと見ていたりした。…
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第3回放送
2009年5月29日
今から五十年ぐらいまえ、ちょうど日露戦争のじぶんのことである。岩滑新田の村に巳之助という十三の少年がいた。巳之助は、父母も兄弟もなく、親戚のものとて一人もない、まったくのみなしごであった。そこで巳之助は、よその家の走り使いをしたり、女の子のように子守をしたり、米を搗いてあげたり、そのほか、巳之助のような少年にできることなら何でもして、村に置いてもらっていた。…
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第4回放送
2009年6月5日
日が暮れて青い夕闇の中を人々がほの白くあちこちする頃、人力車は大野の町にはいった。巳之助はその町でいろいろな物をはじめて見た。軒をならべて続いている大きい商店が、第一、巳之助には珍らしかった。巳之助の村にはあきないやとては一軒しかなかった。…
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第5回放送
2009年6月12日
巳之助は今までなんども、「文明開化で世の中がひらけた」ということをきいていたが、今はじめて文明開化ということがわかったような気がした。歩いているうちに、巳之助は、様々なランプをたくさん吊してある店のまえに来た。これはランプを売っている店にちがいない。…
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第6回放送
2009年6月19日
巳之助の新しいしょうばいは、はじめのうちまるではやらなかった。百姓たちは何でも新しいものを信用しないからである。そこで巳之助はいろいろ考えたあげく、村で一軒きりのあきないやへそのランプを持っていって、ただで貸してあげるからしばらくこれを使って下さいと頼んだ。…
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第7回放送
2009年6月26日
巳之助はもう、男ざかりの大人であった。家には子供が二人あった。「自分もこれでどうやらひとり立ちができたわけだ。まだ身を立てるというところまではいっていないけれども」と、ときどき思って見て、そのつど心に満足を覚えるのであった。…
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第8回放送
2009年7月3日
「何だやい、変なものを吊したじゃねえか。あのランプはどこか悪くでもなったかやい」と巳之助はきいた。すると甘酒屋が、「ありゃ、こんどひけた電気というもんだ。火事の心配がのうて、明かるうて、マッチはいらぬし、なかなか便利なもんだ」と答えた。…
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第9回放送
2009年7月10日
ランプの、てごわいかたきが出て来たわい、と思った。いぜんには文明開化ということをよく言っていた巳之助だったけれど、電燈がランプよりいちだん進んだ文明開化の利器であるということは分らなかった。…
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第10回放送
2009年7月17日
菜の花ばたの、あたたかい月夜であった。どこかの村で春祭の支度に打つ太鼓がとほとほと聞えて来た。巳之助は道を通ってゆかなかった。みぞの中を鼬のように身をかがめて走ったり、藪の中を捨犬のようにかきわけたりしていった。…
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第11回放送
2009年7月24日
巳之助は、今になって、自分のまちがっていたことがはっきりとわかった。――ランプはもはや古い道具になったのである。電燈という新しいいっそう便利な道具の世の中になったのである。それだけ世の中がひらけたのである。…
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第12回放送
2009年7月31日
風のない夜で、ランプは一つ一つがしずかにまじろがず、燃え、あたりは昼のように明かるくなった。あかりをしたって寄って来た魚が、水の中にきらりきらりとナイフのように光った。「わしの、しょうばいのやめ方はこれだ」と巳之助は一人でいった。…
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第13回放送
2009年8月7日
「巳之助さんは今でもまだ本屋をしている。もっとも今じゃだいぶ年とったので、息子が店はやっているがね」と東一君のおじいさんは話をむすんで、冷めたお茶をすすった。巳之助さんというのは東一君のおじいさんのことなので、東一君はまじまじとおじいさんの顔を見た。…
※一部の作品には、現在において不適切と思われる表現が含まれている場合がありますが、
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
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