
プログラムのご案内

- タイトル
- 「たずねびと」
- 著 者
- 太宰 治
- 朗 読
- 浅見博幸アナウンサー
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第1回放送
2009年12月18日
この「東北文学」という雑誌の貴重な紙面の端をわずか拝借して申し上げます。どうして特にこの「東北文学」という雑誌の紙面をお借りするかというと、それには次のような理由があるのです。この「東北文学」という雑誌は、ご承知の如く、仙台の河北新報社から発行せられて…
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第2回放送
2009年12月25日
その言葉が、あの女のひとの耳にまでとどかざる事、あたかも、一勇士を葬らわんとて飛行機に乗り、その勇士の眠れる戦場の上空より一束の花を投じても、決してその勇士の骨の埋められたる個所には落下せず、あらぬかなたの森に住む鷲の巣にばさと落ちて雛をいたずらに驚愕せしめ、或いはむなしく海波の間に浮び漂うが如き結末になると等しく…
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第3回放送
2010年1月8日
翌朝とにかく上野駅から一番早く出る汽車、それはどこへ行く汽車だってかまわない、北のほうへ五里でも六里でも行く汽車があったら、それに乗ろうという事になって、上野駅発一番列車、夜明けの五時十分発の白河行きに乗り込みました。…
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第4回放送
2010年1月15日
下の男の子が、いつまでも、ひいひい泣きつづけ、その口に妻が乳房を押しつけても、ちっとも乳が出ないのを知っているので顔をそむけ、のけぞっていよいよ烈しく泣きわめきます。近くに立っていたやはり子持ちの女のひとが見かねたらしく、「お乳が出ないのですか?」と妻に話掛けて来ました。…
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第5回放送
2010年1月22日
福島を過ぎた頃から、客車は少しすいて来て、私たちも、やっと座席に腰かけられるようになりました。ほっと一息ついたら、こんどは、食料の不安が持ちあがりました。おにぎりは三日分くらい用意して来たのですが、ひどい暑気のために、…
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第6回放送
2010年1月29日
窓外の風景をただぼんやり眺めているだけで、私には別になんのいい智慧も思い浮びません。或る小さい駅から、桃とトマトの一ぱいはいっている籠をさげて乗り込んで来たおかみさんがありました。…
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第7回放送
2010年2月5日
それから、妻は、まずい事を仕出かしました。突然お金を、そのおかみさんに握らせようとしたのです。たちまち、ま!いや!いいえ!さ!どう!などと、殆んど言葉にも何もなっていない小さい叫びが二人の口から交互に火花の如くぱっぱっと飛び出て、…
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第8回放送
2010年2月12日
私たちの計画は、とにかくこの汽車で終点の小牛田まで行き、東北本線では青森市のずっと手前で下車を命ぜられるという噂も聞いているし、また本線の混雑はよほどのものだろうと思われ、とても親子四人がその中へ割り込める自信は無かったし、…
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第9回放送
2010年2月19日
「何も、もう無いんだろう。」「ええ。」「蒸しパンでもあるといいんだがなあ。」その私の絶望の声に応ずるが如く、「蒸しパンなら、あの、わたくし、……」という不思議な囁きが天から聞えました。誇張ではありません。たしかに、私の頭の上から聞えたのです。
※一部の作品には、現在において不適切と思われる表現が含まれている場合がありますが、
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
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