
プログラムのご案内

- タイトル
- 「富嶽百景」
- 著 者
- 太宰 治
- 朗 読
- 浅見博幸アナウンサー
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第1回放送
2012年9月14日
富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらい、けれども、陸軍の実測図によって東西及南北に断面図を作ってみると、東西縦断は頂角、百二十四度となり、南北は百十七度である。…
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第2回放送
2012年9月21日
東京の、アパートの窓から見る富士は、くるしい。冬には、はつきり、よく見える。小さい、真白い三角が、地平線にちよこんと出てゐて、それが富士だ。…
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第3回放送
2012年9月28日
井伏氏は、仕事をして居られた。私は、井伏氏のゆるしを得て、当分その茶屋に落ちつくことになつて、それから、毎日、いやでも富士と真正面から、向き合つていなければならなくなつた。…
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第4回放送
2012年10月5日
その翌々日であつたらうか、井伏氏は、御坂峠を引きあげることになつて、私も甲府までおともした。甲府で私は、或る娘さんと見合ひすることになつていた。…
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第5回放送
2012年10月12日
新田といふ二十五歳の温厚な青年が、峠を降りきつた岳麓の吉田といふ細長い町の、郵便局につとめていて、そのひとが、郵便物に依って、…
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第6回放送
2012年10月19日
いちど吉田に連れていつてもらった。おそろしく細長い町であった。岳麓の感じがあった。富士に、日も、風もさへぎられて、ひよろひよろに伸びた茎のようで、…
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第7回放送
2012年10月26日
そこで飲んで、その夜の富士がよかった。夜の十時ごろ、青年たちは、私ひとりを宿に残して、おのおの家へ帰つていった。…
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第8回放送
2012年11月2日
娘さんは、興奮して頬をまっかにしていた。だまって空を指さした。見ると、雪。はっと思った。富士に雪が降ったのだ。…
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第9回放送
2012年11月9日
河口局から郵便物を受け取り、またバスにゆられて峠の茶屋に引返す途中、私のすぐとなりに、濃い茶色の被布を着た青白い端正の顔の、六十歳くらい、私の母とよく似た老婆がしゃんと坐っていて…
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第10回放送
2012年11月16日
十月のなかば過ぎても、私の仕事は遅々として進まぬ。人が恋しい。夕焼け赤き雁の腹雲、二階の廊下で、ひとり煙草を吸いながら、わざと富士には目もくれず、それこそ血の滴るような真赤な山の紅葉を、凝視していた。…
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第11回放送
2012年11月22日
朝に、夕に、富士を見ながら、陰欝な日を送つていた。十月の末に、麓の吉田のまちの、遊女の一団体が、御坂峠へ、おそらくは年に一度くらいの開放の日なのであろう、自動車五台に分乗してやって来た。…
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第12回放送
2012年11月30日
そのころ、私の結婚の話も、一頓挫のかたちであった。私のふるさとからは、全然、助力が来ないということが、はっきり判ってきたので、私は困って了った。…
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第13回放送
2012年12月7日
甲府から帰って来ると、やはり、呼吸ができないくらいにひどく肩が凝っているのを覚えた。「いいねえ、おばさん。やっぱし御坂は、いいよ。…
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第14回放送
2012年12月14日
十月末になると、山の紅葉も黒ずんで、汚くなり、とたんに一夜あらしがあって、みるみる山は、真黒い冬木立に化してしまった。遊覧の客も、いまはほとんど、数へるほどしかない。…
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第15回放送
2012年12月21日
「あら!」と背後で、小さい叫びを挙げた。娘さんも、素早くその欠伸を見つけたらしいのである。やがて花嫁の一行は、待たせて置いた自動車に乗り、峠を降りていったが、あとで花嫁さんは、さんざんだった。…
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第16回放送
2012年12月28日
山を下る、その前日、私は、どてらを二枚かさねて着て、茶店の椅子に腰かけて、熱い番茶を啜っていたら、冬の外套着た、タイピストでもあらうか、若い知的の娘さんがふたり、トンネルの方から…
※一部の作品には、現在において不適切と思われる表現が含まれている場合がありますが、
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
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