
プログラムのご案内

- タイトル
- 「鼠小僧次郎吉」
- 著 者
- 芥川龍之介
- 朗 読
- 浅見博幸アナウンサー
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第1回放送
2015年2月20日
或初秋の日暮であつた。汐留の船宿、伊豆屋の表二階には、遊び人らしい二人の男が、さつきから差し向ひで、頻に献酬を重ねてゐた。一人は色の浅黒い、小肥りに肥つた男で、形の如く結城の単衣物に、八反の平ぐけを締めたのが、…
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第2回放送
2015年2月27日
二人は女中まで遠ざけて、暫くは何やら密談に耽つてゐたが、やがてそれも一段落ついたと見えて、色の浅黒い、小肥りに肥つた男は、無造作に猪口を相手に返すと、膝の下の煙草入をとり上げながら、…
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第3回放送
2015年3月6日
色の白い、小柄な男は、剳青のある臂を延べて、親分へ猪口を差しながら、 「あの時分の事を考へると、へへ、妙なもので盗つ人せえ、懐しくなつて来やすのさ。先刻御承知にや違え無えが、…
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第4回放送
2015年3月13日
丁度今から三年前、おれが盆茣蓙の上の達て引きから、江戸を売つた時の事だ。東海道にやちつと差しがあつて、 路は悪いが甲州街道を身延まで出にやなら無えから、忘れもし無え、極月の十一日、四谷の荒木町を振り出しに、…
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第5回放送
2015年3月20日
するとおれの旅慣れ無えのが、通りがかりの人目にも、気の毒たらしかつたのに違え無え。 府中の宿をはづれると、堅気らしい若え男が、後からおれに追ひついて、…
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第6回放送
2015年3月27日
するとその越後屋重吉と云ふ野郎が、先に立つて雪を踏みながら、「旦那え、今夜はどうか御一しよに願ひたうござりやす。」と何度もうるさく頼みやがるから、おれも異存がある訳ぢやなし、…
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第7回放送
2015年4月3日
が、こつちや災難だ。何を云ふにも江戸を立つて、今夜が始めての泊りぢやあるし、その鼾が耳へついて、あたりが静になりやなる程、反つて妙に寝つかれ無え。外はまだ雪が止ま無えと見えて…
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第8回放送
2015年4月10日
さあ、その騒ぎが聞えての、隣近所の客も眼をさましや、宿の亭主や奉公人も、何事が起つたと云ふ顔色で、手燭の火を先立ちに、どかどか二階へ上つて来やがつた。来て見りやおれの股ぐらから、あの野郎がもう片息になつて、面妖な面を出してゐやがる始末よ。…
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第9回放送
2015年4月17日
そのまはりにや又若え者が、番頭も一しよに三人ばかり、八間の明りに照らされながら、腕まくりをしてゐるぢや無えか。中でもその番頭が、片手に算盤をひつ掴みの、薬罐頭から湯気を立てて、忌々しさうに何か云ふのを聞きや、 「ほんによ、こんな胡麻の蠅も、今に劫羅を経て見さつし、…
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第10回放送
2015年4月24日
これにや皆驚いたのに違え無え。実は梯子を下りかけたおれも、あんまりあの野郎の権幕が御大さうなものだから、又中段に足を止めて、もう少し下の成行きを眺めてゐる気になつたのよ。まして人の好ささうな番頭なんぞは、算盤まで持ち出したのも忘れたやうに、呆れてあの野郎を見つめやがつた。…
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第11回放送
2015年5月01日
それを見るとあの野郎め、愈しやくんだ顋を振りの、三人の奴らをねめまはして、 「へん、このごつぽう人めら、手前たちを怖はがるやうな、よいよいだとでも思やがつたか。いんにやさ。唯の胡麻の蠅だと思ふと、相手が違ふぞ。手前たちも覚えてゐるだらうが、去年の秋の嵐の晩に、この宿の庄屋へ忍びこみの、…
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第12回放送
2015年5月08日
が、さう云ふか云は無え内に、胴震ひを一つしたと思ふと、二つ三つ続けさまに色気の無え嚏くしやみをしやがつたから、折角の睨みも台無しよ。それでも三人の野郎たちは、勝角力かちずまふの名乗りでも聞きやしめえし、あの重吉の間抜野郎を煽ぎ立て無えばかりにして、「おらもさうだらうと思つてゐた。…
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第13回放送
2015年5月15日
番頭のやつはてれ隠しに、若え者を叱りながら、そこそこ帳場の格子の中へ這入ると、仔細らしく啣へ筆で算盤をぱちぱちやり出しやがつた。おれはその間に草鞋をはいて、さて一服吸ひつけたが、見りやあの胡麻の蠅は、もう御神酒がまはつたと見えて、…
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第14回放送
2015年5月22日
「話と云ふのはこれつきりよ。」色の浅黒い、小肥りに肥つた男は、かう一部始終を語り終ると、今まで閑却されてゐた、膳の上の猪口を取り上げた。 向うに見える唐津様の海鼠壁には、何時か入日の光がささなくなつて、掘割に臨んだ一株の葉柳にも、そろそろ暮色が濃くなつて来た。と思ふと三縁山増上寺の…
※一部の作品には、現在において不適切と思われる表現が含まれている場合がありますが、
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
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