
プログラムのご案内

- タイトル
- 「最後の一句」
- 著 者
- 森鴎外
- 朗 読
- 浅見博幸アナウンサー
-
第1回放送
2015年7月24日
元文三年十一月二十三日の事である。大阪で、船乗り業|桂屋太郎兵衛というものを、木津川口で三日間さらした上、斬罪に処すると、高札に書いて立てられた。市中至る所太郎兵衛のうわさばかりしている中に、…
-
第2回放送
2015年7月31日
これに反して、厄難に逢つてからこのかた、いつも同じやうな悔恨と悲痛との外に、何物をも心に受け入れることの出來なくなつた太郎兵衞の女房は、手厚くみついでくれ、親切に慰めてくれる母に對しても、ろく感謝の意をも表することがない。母がいつ來ても、同じやうな繰言を聞せて歸すのである。…
-
第3回放送
2015年8月7日
桂屋にかぶさって来た厄難というのはこうである。主人太郎兵衛は船乗りとは言っても、自分が船に乗るのではない。北国通いの船を持っていて、それに新七という男を乗せて、運送の業を営んでいる。大阪ではこの太郎兵衛のような男を居船頭と言っていた。…
-
第4回放送
2015年8月14日
平野町のおばあ様が来て、恐ろしい話をするのを姉娘のいちが立ち聞きをした晩の事である。桂屋の女房はいつも繰り言を言って泣いたあとで出る疲れが出て、ぐっすり寝入った。女房の両わきには、初五郎と、とくとが寝ている。初五郎の隣には長太郎が寝ている。…
-
第5回放送
2015年8月21日
いちは起きて、手習いの清書をする半紙に、平がなで願書を書いた。父の命を助けて、その代わりに自分と妹のまつ、とく、弟の初五郎をおしおきにしていただきたい、実子でない長太郎だけはお許しくださるようにというだけの事ではあるが、…
-
第6回放送
2015年8月28日
ようよう西奉行所にたどりついて見れば、門がまだ締まっていた。門番所の窓の下に行って、いちが「もしもし」とたびたび繰り返して呼んだ。 しばらくして窓の戸があいて、そこへ四十格好の男の顔がのぞいた。…
-
第7回放送
2015年9月4日
三人の子供は門のあくのをだいぶ久しく待った。ようよう貫木をはずす音がして、門があいた。あけたのは、先に窓から顔を出した男である。いちが先に立って門内に進み入ると、まつと長太郎とが後ろに続いた。…
-
第8回放送
2015年9月11日
西町奉行の佐佐は、両奉行の中の新参で、大阪に来てから、まだ一年たっていない。役向きの事はすべて同役の稲垣に相談して、城代に伺って処置するのであった。それであるから、桂屋太郎兵衛の公事について、前役の申し継ぎを受けてから、それを重要事件として気にかけていて、ようよう処刑の手続きが済んだのを重荷をおろしたように思っていた。…
-
第9回放送
2015年9月18日
与力の座を立ったあとへ、城代太田備中守資晴《おおたびっちゅうのかみすけはる》がたずねて来た。正式の見回りではなく、私の用事があって来たのである。太田の用事が済むと、佐佐はただ今かようかようの事があったと告げて自分の考えを述べ、さしずを請うた。…
-
第10回放送
2015年9月25日
尋問は女房から始められた。しかし名を問われ、年を問われた時に、かつがつ返事をしたばかりで、そのほかの事を問われても、「いっこうに存じませぬ」、「恐れ入りました」と言うよりほか、何一つ申し立てない。…
-
第11回放送
2015年10月2日
取調役は「まつ」と呼びかけた。しかしまつは呼ばれたのに気がつかなかった。いちが「お呼びになったのだよ」と言った時、まつは始めておそるおそるうなだれていた頭をあげて、縁側の上の役人を見た。「お前は姉といっしょに死にたいのだな」と、取調役が問うた。…
-
第12回放送
2015年10月9日
「そんなら今一つお前に聞くが、身代わりをお聞き届けになると、お前たちはすぐに殺されるぞよ。父の顔を見ることはできぬが、それでもいいか。」「よろしゅうございます」と、同じような、冷ややかな調子で答えたが、少し間を置いて、何か心に浮かんだらしく、…
-
第13回放送
2015年10月16日
城代も両奉行もいちを「変な小娘だ」と感じて、その感じには物でも憑いているのではないかという迷信さえ加わったので、孝女に対する同情は薄かったが、当時の行政司法の、元始的な機関が自然に活動して、いちの願意は期せずして貫徹した。…
※一部の作品には、現在において不適切と思われる表現が含まれている場合がありますが、
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
原作の内容を尊重し、原作通り朗読させていただいております。
このコンテンツの楽しみ方