実際に乾癬を経験した山下織江さんをはじめ、患者と医師、薬剤師それぞれの立場から、乾癬治療における理想的なコミュニケーションについてディスカッションしました。

Discussion.1
医師には話しづらいことも
菅井先生:治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療が適切に強化されていない状態を「クリニカルイナーシャ」と言います。診療的惰性、治療の惰性と訳されることもあります。例えば、乾癬の患者さんに対して、医師が「毎日薬を塗ってくださいね」と言っても、実際はなかなかできない場合もあるのではないかと思います。前向きに工夫ができればいいのですがやらなくてはいけない事が出来ないでいると治療のステップアップができず、症状がいつまでもダラダラと続いてしまうことに。

山下さん:患者の立場としては、これまでに使ったことのないお薬が始まると、続けられるのかなという不安や副作用に対する心配があります。治療費や薬代などの経済的負担、通院にかかる時間や体力も悩みの種に。治療をしてどこまで良くなれるのか、この先どうなるのか、具体的な見通しが持てないと、このままでいいかな…と諦めの気持ちを抱いてしまいます。もっと良い治療があるのでは?と思っても、不満を伝えるのは申し訳ない、嫌な患者だと思われないように遠慮してしまうことも。先生の判断に任せるのが一番と考え、自分の希望を伝えられない人もいます。

桒野先生:過度な引け目や遠慮というのは、クリニカルイナーシャを引き起こします。医師だけでなく、薬剤師や看護師さんといった別視点を持つ医療従事者に相談することで解決の糸口が見つかることもありますよね。患者さんから薬剤師への相談として多いのは、薬を飲み忘れてしまう、薬の副作用による眠気が気になる、一日2回も薬を塗るのは大変、塗り薬はベタベタする、など。薬を飲む・塗るタイミングを変更できないか、薬自体を変更できないか、医師と相談して検討することもあります。生活の中でのお薬の使い方や注意点などは、気軽に薬剤師へご質問ください。

Discussion.2
医療従事者たちは患者さんの味方
山下さん:私も最初は診察室で本音を言えなかったのですが、お医者さんだけではなく、いろいろな医療従事者の方との関わりを通じて、自分が治療に何を望んでいるのか、何を不安に思っているのかをより具体的に伝えられるようになり、治療も納得して継続できるようになったと感じています。皆さんそれぞれの立場から患者さんを支えてくださっています。自分が目指したい状態や日常生活で困っていること、治療の全体像、薬の効果や副作用、そして医療費や治療継続に関する負担についてなど、遠慮や我慢をせずに相談できることが理想的なコミュニケーションなんじゃないかなと思います。

菅井先生:医師だけではなく、看護師、薬剤師、受付の方など、みんな患者さんの困りごとを改善するために、最善を尽くしたいと思っています。乾癬治療はワンチームです。良いこともあったら一緒に喜びたいですし、悪いことも一人で悩まずに伝えてください。より良い治療に向けて、一歩ずつでも進んでいきましょう。

桒野先生:私たち薬剤師も医療従事者の一員として、患者さんの生活の質が少しでも向上、改善してほしいと考えております。患者さんやそのご家族のお薬に対する希望というのを、ぜひお伝えいただきたいです。患者さんとご家族、医療従事者がチーム一丸となって治療に向き合っていく姿勢が大切だと思います。

Discussion.3
乾癬について話せる場所がある
山下さん:患者会との出会いも私にとっては大きなきっかけでした。患者会を通じて正しい知識や最新の情報を得ることができたことで、診察室で治療や症状についてお医者さんに相談するときも、より具体的に質問ができるようになったんじゃないかなと感じています。患者会に来てくださるお医者さんや医療従事者の方とのコミュニケーションを重ねることで、日頃の診察室の場でも、心理的な距離が近くなったんじゃないかなと感じています。

菅井先生:日本は乾癬の患者数が少なく、周りに乾癬の患者さんがいなくて孤立していらっしゃる方が多いんですよね。患者会を活用することで、悩みの解決方法や治療法について非常に有益なお話を聞けますし、乾癬を乗り越えてきた患者さんの話に勇気づけられたり、新しい目標ができるきっかけにもなったり。

患者さんのみならず、ご家族で来られる方もいらっしゃいます。乾癬は、家族や周囲の方も含めて、いろんな方のサポートが大切です。症状に振り回されないで、より良い生活を家族で過ごしていただきたい。そのためには、乾癬のことを正しく知っていただきたいです。そして、患者さんのことを一番知っているのは担当の先生です。医師や看護師さん、薬剤師さんとのコミュニケーションを通して、明日からの治療がより良いものになれば幸いです。