掌蹠膿疱症とは、どういう病気なのでしょうか。掌蹠膿疱症の要因、適切な診断や治療方法について、聖母病院 皮膚科部長 小林里実先生に解説していただきます。

Advice.1
生活の質が損なわれ、精神的にも辛い病気
掌蹠膿疱症は「しょうせきのうほうしょう」と読みます。掌は手のひら、蹠は足の裏という意味で、そこに膿疱が多発する病気です。手のひら、足の裏に無菌性の膿が出ますが、菌はいませんのでうつりません。ですが、どんどんと新しい膿が出てくるため、かさぶたになって剥がれ落ちるのを繰り返すうちに、赤くてガサガサした皮膚になるわけです。
全身に症状が出る乾癬と比べると、面積は少ないですが、手足という機能する部位であること、人目に触れる部位であることから、非常に大きなQOL(生活の質)障害になります。人前で手を出せない、髪の毛が洗えない、水ぶくれが出るときはすごくかゆい、歩くと痛い、サンダルが履けない、家事も難しい、など。

患者さんは女性が多く、主婦の方も多いので、家事をする際に家族から疎まれ、「そんな汚い手で料理しないでくれ」と言われることもあるようです。精神的な傷は、後になって症状が良くなったとしてもトラウマとして残ります。そして、掌蹠膿疱症は感染すると誤解されてしまう。こうした疎外感、孤立感というものに、患者さんたちは苦しんでいます。
掌蹠膿疱症は爪にも起こります。爪の下に膿ができる、爪の下に白や黄色や茶色に近いようなブツブツが出てくる、爪が剥がれる、爪の下の皮膚が炎症を繰り返すと爪が厚くなって盛り上がる、など。乾癬の爪の変化ともよく似ています。洋服のボタンをかけたり、厚みのない物をつかんだりするのが困難に。爪の役割を思い知らされます。
Advice.2
掌蹠膿疱症は正しい診断が必要
海外では、掌蹠膿疱症は乾癬の一部と捉えられています。掌蹠膿疱症の患者数は海外では少なく、世界の論文を読んで勉強する時、日本人に多い掌蹠膿疱症と異なる疾患をさしている可能性があるので注意が必要です。乾癬は完治がなかなか難しく、継続的な治療が必要なため、患者数は年齢とともに増えていきます。一方、掌蹠膿疱症は50〜70代の女性に多く、正しい治療によって改善する患者さんが多いという特徴があります。重症で治療抵抗性の方もいらっしゃいますが、掌蹠膿疱症は治すことができますので治癒を目指しましょう。手足の皮膚症状は、水虫やアトピー性皮膚炎、金属アレルギー性皮膚炎、皮膚悪性リンパ腫、膠原病であることもあります。皮膚科専門医を受診し、正しい診断を受けることが大切です。
Advice.3
掌蹠膿疱症の方に起こりやすいもう一つの病気
掌蹠膿疱症の方に起こる可能性がある難病として、掌蹠膿疱症性骨関節炎があります。

鎖骨や胸、背骨、腰の骨に好発部位があって、他にも首や手足の骨等、様々な骨に炎症を起こす病気です。ある日突然、激痛が襲うというようなケースもあります。掌蹠膿疱症の患者さんの10~30%ぐらいに起こっています。鎖骨や胸の骨(胸鎖関節炎、胸肋関節炎)では、夜寝ている間に寝返りを打つと激痛で起きてしまう、くしゃみをすると非常に痛い、歩くたびに響くのでゆっくりしか歩けない、など、患者さんは日常生活そのものに大きな困難をかかえています。また、骨に炎症をおこすと、その骨は弱くなるのと同時に骨と骨がくっついて(強直)柔軟性を失い、背骨など骨折しやすくなります。体を支える背骨が潰れてしまうと、体の痛みはなかなか治りません。掌蹠膿疱症が治っても掌蹠膿疱症性骨関節炎が悪化していくことも多く、また、掌蹠膿疱症が治ってしまってから掌蹠膿疱症性骨関節炎が始まることもあります。掌蹠膿疱症性骨関節炎は、掌蹠膿疱症と同じ免疫体質の方に起こりますが、自然経過は異なることが多いため、手遅れにならないように痛みがあったら専門医に相談してください。
掌蹠膿疱症性骨関節炎は、容易に診断がつかないことがあります。理由の一つは、骨炎を起こしているのに、血液検査では炎症値が上がりにくいため。もう一つは、動けないほど痛い急性期には、まだ骨の形は正常で、骨のむくみだけなので、X線画像では診断がつかない。仮病じゃないかと言われ、切ない思いをする患者さんもいらっしゃいます。急性期はMRIを撮ってもらってください。そのときに「脂肪抑制画像またはSTIR像も撮ってください」と言っていただくと、急性期の骨のむくみがわかります。骨の痛みは、骨折や腫瘍、細菌感染症、さらにはクローン病や潰瘍性大腸炎に伴う骨炎などでも起こりますので、専門家による正しい診断と、適切な治療を受けることが大切です。
Advice.4
知っておきたい掌蹠膿疱症の要因
要因1:喫煙
掌蹠膿疱症の患者さんは喫煙をしていた方が非常に多いです。喫煙によって免疫物質が出ることと、ニコチンに関連するレセプターが、膿疱ができる手足の汗の出口付近などに多く出ていることがわかっています。さらに、喫煙をしていると歯周病になりやすい。タバコは他にも様々な要因に関わっていますので、禁煙は治療において重要です。
要因2:病巣感染
体の中に無症状の病巣があり、それ自体は症状がないのに、離れた臓器に別の病気を起こすという現象を「病巣感染」といいます。掌蹠膿疱症と掌蹠膿疱症性骨関節炎は病巣感染の代表疾患です。病巣はどこにあるかというと、扁桃、歯性病巣(歯)、そして副鼻腔炎。これが3大原因病巣です。腫れや痛みなどの症状はないのに扁桃や歯の治療をしなければならないのが、この疾患の特殊性です。日本人の掌蹠膿疱症では、8割以上の方が病巣感染で起こっていることがわかってきました。また、6割以上の方は歯が原因病巣です。しかし過去には、稀なケースである金属アレルギーがクローズアップされるなど、正しい情報や治療を届けられなかった背景があります。

神経を抜いた歯は痛みも感じないですが、歯の免疫力が低下しています。そのような歯の根元に膿が溜まると、顎骨が解けて根尖病巣となります。あるいは歯槽膿漏で歯周ポケットが4mm以上ですと、掌蹠膿疱症の発症リスクになります。または、何か鼻の奥に流れる、頬の奥がちょっと痛いとか重い等の症状がある場合は、副鼻腔炎がないか耳鼻科の診察を受けてください。
要因3:腸内細菌
腸内細菌が関係している人もいます。便秘、下痢を繰り返している方、あるいは小さい頃から便秘がちの方も多くみられ、それらの治療で掌蹠膿疱症や掌蹠膿疱症性骨関節炎の症状が軽くなる方がいらっしゃいます。 腸内細菌が全身の炎症疾患に関係することが注目されており、腸内環境の改善は意外に大切です。
Advice.5
掌蹠膿疱症の治療を始める前に知っておきたいこと
塗り薬や飲み薬、生物学的製剤など、治療法も増えてきましたが、それよりも、とにかく禁煙と病巣治療が最優先です。これらを行った上でのお薬による治療です。
根尖病巣の治療
  • 抜歯(インプラントやブリッジなどの再建術が必要。病巣は完治する)
  • 根管治療(歯を残す治療。再発のリスクがある)
何回も治療して削っている歯は「抜歯しかない」と言われることがあります。しかし義歯やインプラント、ブリッジになるのを躊躇して、病んでいる歯を抜かないでいると、例えば背骨に炎症がある人は健康な背骨を次々に侵されるリスクになるかもしれません。
自分の掌蹠膿疱症や掌蹠膿疱症性骨関節炎の状態を主治医によく聞いてみましょう。
辺縁性歯周炎の治療
  • 歯科医師や歯科衛生士による歯周炎治療
掌蹠膿疱症や掌蹠膿疱症性骨関節炎の方は、歯周炎から皮膚の膿疱や骨炎を引き起こしやすい免疫を持っています。歯がある限り、歯周病予防のために歯科に通いましょう。
慢性副鼻腔炎の治療
  • 通常の副鼻腔炎は耳鼻科で治療します(抗菌薬などの内服、重症例では手術をすることもあるようです)
  • 歯性副鼻腔炎は歯科で治療します(病巣のある歯が上顎洞に及んでいるため抜歯を要することが多いです)
病巣扁桃の治療
  • 扁桃摘出術(入院のうえ、全身麻酔で手術)
  • 保存的治療(抗菌薬の内服)
歯周病治療と副鼻腔炎の治療でも良くならなかった方は、病巣扁桃の可能性が残ります。病巣扁桃の治療は扁桃摘出か薬物療法かということになります。掌蹠膿疱症の病巣扁桃は全く症状がありません。掌蹠膿疱症や掌蹠膿疱症性骨関節炎の方は、口腔内の常在菌に反応してしまう過剰な免疫を持っていると推測されているのです。禁煙が達成できていないと、せっかく扁桃摘出術を受けても数年後に再発するリスクがありますので、禁煙は絶対に必要です。
対症療法としての治療
掌蹠膿疱症に対して
  • 外用療法(ステロイド/活性型ビタミンD3、亜鉛華軟膏、保湿や保護、他)
  • 紫外線療法
  • 難治例、重症例に、免疫調整薬などの飲み薬、生物学的製剤(注射)、顆粒球吸着療法
掌蹠膿疱症性骨関節炎に対して
  • 痛み止めの内服、湿布など
    厳密には適応症ではありませんが以下の治療が役立つことがあります。
  • 骨粗しょう症の薬、免疫調整薬、漢方など
  • 生物学的製剤、顆粒球吸着療法など
    掌蹠膿疱症が治っても掌蹠膿疱症性骨関節炎を発症することがあります。
抗炎症作用のあるビタミン剤を飲んでいる、飲んでいた方がいらっしゃるかもしれません。これは特殊なビタミン剤で、炎症物質をはじめ様々な物質と結びつきやすく、結合して洗い流してしまうので、効くような気がするのですが、病巣を取り除くわけではないので、見た目だけがよくなった状態で根本的な治療ではありません。もし掌蹠膿疱症が治ったとしても同じく病巣から引き起こされる掌蹠膿疱症性骨関節炎が発症するリスクがあるのです。今日では、心筋梗塞の診断に用いられる試薬にこのビタミンが使われているため、大量に服用すると検査異常をきたして誤診につながるリスクも出てきました。ビタミンに頼らずに正しく治療しましょう。

抜歯や扁桃摘出を考えるとき、患者さん本人がどれだけこの病気で困っているのか、Shared Decision Making(共同意思決定)と言いますけれども、患者さんの価値観や希望を重視しながら治療方針を決めていきます。治療については、歯科医と皮膚科医、あるいは整形外科医とよく相談してください。患者さんも知識を持って、一緒に治療方針の決定に加わっていただきたいのです。
Advice.6
Check
日本皮膚科学会診療の手引き
「掌蹠膿疱症診療の手引き 2022」
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/PPP2022.pdf

掌蹠膿疱症患者会 PPPコミュニティ
「相談医と協力医」
https://ppp-community.com/doctor/